失敗談3

(悪徳写真屋にボラレルの巻

 

これはパリでのお話。

観光バスで市内を巡り、パリの街を一望に見下ろすモンマルトルの丘で下車した途端、不覚にも悪徳写真屋につかまる。

若い身体の大きな男で、しきりに“サンフラン、サンフラン”と言ってまつわりつく。おや、こま男、日本語ができるのか。そう言えば、ローマの土産物売りに片言の日本語ができるのがいたのを思い出し、この男もその類と早合点してしまい、3フラン(220)なら安いと思い、つい頷いてしまう。

なお、この旅行では自分はスライド用のポジフィルムしか持たず、ネガフィルムは持っていなかったので、ネガの写真も少しは欲しいと言う心理が働いたのも事実であった。

ところが、サクレ・クール寺院をバックに1枚撮ったところで、まず20フラン要求される。冗談じゃない、3フランの筈だったが.....しかし相手には日本語が全然通じないばかりか、英語も殆ど通じない。しきりと値段表を示す。なるほど240フラン、480フランという数字が見える。

それにしてもどうして最初にサンフランと聞こえてしまったのかと思ったが、後の祭り。ということでもう1枚パチリ。ここでもう20フラン渡し、これで2枚渡してくれるのかと思ったが、最初から4枚のつもりで、既に後2枚分もセットしてしまってあると言う。

こちらは言葉が通じない上に、時間もない。おまけに相手には仲間がウヨウヨいるようだ。ええい、ままよと、あと40フラン払って2枚撮ってもらう羽目になる。これで邦貨にして約6000円がパーッとなった。

最初からモノクロでなく、この頃まだ高価だったカラーと知っていれば、3フランなぞと思い込む由もなかったが、ついフラフラと話に乗ってしまったのはやはり疲れが極度に激しかったせいもあろうが、それにしても。軽率であった。

パリでは、モンマルトル付近は最も用心が肝要という話を聞いたのは、日本へ帰ってからのことであった。